労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター

調査研究

食品製造業従事者(特にパン製造業)における職業性アレルギーに関する実態調査

1. 背景と目的

 小麦は、古くから、小麦粉喘息として、呼吸器系の職業性アレルギーの原因としてよく知られており、多数の報告がある。その他同様に小麦による即時型アレルギーで引き起こされる鼻炎、結膜炎ならびに接触皮膚炎、蕁麻疹と、耳鼻科、皮膚科領域と多岐にわたる症状を呈するが、喘息以外の小麦アレルギーの症例報告は本邦では非常に少なく、さらに、喘息を含めても本邦における職業性アレルギー疾患に関する報告のほとんどは症例報告の蓄積によるものがほとんどで、疫学的な調査はほとんど行われていない。本調査では、とくにパン製造業者を対象とし、職業性アレルギー疾患の実態を明らかし、アレルギー疾患の発症を予防する適切な作業方法、作業環境を検討することを目的とする。

2. 研究方法

•  対象は、熊本県パン協会の 42 名のパン製造業者とし、作業環境(機械作業か手作業か、皮膚、眼、鼻の保護具の提供の有無、小麦粉粉塵の取り扱い方など)と事業主が把握している小麦、あるいは手袋、その他の職場環境に存在するものによる職業性アレルギーと考えられる従事者の有無(喘息、鼻炎、結膜炎、接触蕁麻疹、接触性皮膚炎など)を過去、現在ふくめて質問紙表にて問い合わせる。
•  承諾が得られた事業所があれば、作業環境(とくに小麦粉粉塵の測定)、作業形態等の観察を行う。
•  すでに本調査研究のなかで、職業性皮膚アレルギーに関する症例調査表が開発されているが、それを用いた症例収集を実施する。対象は、熊本県医師会が作成している産業医リストの 700 名とする。

3  結果と考察

          •  熊本県パン協会のパン製造業者(事業主)に対するアンケート調査

 対象事業所は熊本県下パン協同組合に属する 42 名のパン製造業事業主で、質問紙表を送付したところ、有効回答数は 20 事業所であった。対象事業所ごとの従事者数と事業主が把握している何らかの職業性アレルギーと思われる症状を有する従事者の数を表1に示す。マスクを支給しているのは 19 8 事業所で、主に紙マスク、あるいは、綿マスクで、手袋は、 19 9 事業所で支給されており、規模の大きい 2 事業所ではニトリル手袋を支給していた。小麦粉粉塵飛散防止のために対策をとっている事業所は、 18 6 事業所で、規模の大きい事業所では、集塵機、あるいは局所排気装置を採用していた。 3 小規模事業所は、カバーをつけると答えた。また、飛散しにくい比重の重い手粉を使用すると答えた事業所が 1 箇所あった。

•  事業所 No.1 の小麦粉粉塵測定結果

 2 に結果を示す。使用した粉塵計は、労研式個人エアーサンプラーで、結果、C地点(分割機付近)で平均粉塵量は、最も多く 1.62mg/m 3 であった。吸入性粉塵( 径< 7 μ m 以下 )は、そのうちの約 1 割でごくわずか検出されたのみであった。D(食パンライン)とE(ロールライン)はそれぞれ 0.76 mg/m 3 0.55 mg/m 3 であった。AとBは、横型ミキサーの脇で、投入口があいて材料を投入する際は、小麦粉粉塵が目視で確認できるほど飛散していたが、平均粉塵量としては最も少なくAは検出限界以下であった。

•  認定産業医に対する職業関連アレルギー症例収集

熊本県医師会の認定産業医 642 名のうち、 146 名より回答があり、そのうち 7 名の医師に計 20 名の職業性アレルギー症例と考えられる症例の提供を受けた。うちわけは、旅館業の手の皮膚炎、精米業者の呼吸機能低下、左官業のセメントによる皮膚炎、電子部品製造業者のアセトンによると考えられる皮膚炎、塗装業者の喘息、ハウストマト栽培従事者の過敏性肺臓炎(かび?)あるいは喘息、葉煙草栽培従事者の皮膚炎などであった。

PDFアイコン表1及び表2(80.2KB)


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