労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター

調査研究

平成13年度産業保健調査研究

熊本県下中小企業における中高年労働者の健康・安全およびQWLの向上に関する調査研究

  1. 平成13年度産業保健調査研究として、熊本産業保健推進連絡事務所では、中高年労働者の健康と安全の維持増進を取り上げました。
     職域における中高年労働者の増加は、私たちの地域や産業の構造を変化させ、それに対応して、新たな産業保健上の問題を提起しております。しかしながら、これまでに蓄積されてきた中高年労働者の労働衛生の理念や技術のみでは、それらの問題に現場で適切に対応することが困難な事例も多いように思われます。
     したがって、これからの職域における中高年労働者の健康と安全の問題を正しく把握し、それに基づいた効果的な産業保健対策を進めていくためには、中高年労働者を取り巻く職場・生活・地域に根ざして、健康・安全・Quality Of Working Life (QWL) の実態を見直し、新たな視点からその対策を追求する必要があります。
  2. そこで私たちは、中高年労働者のQWLを高める職場を作るために、現場の作業のあり方や作業環境のあり方や健康増進と安全管理のあり方の実態とその要因を解析し、それに基づいて中高年労働者の安全と健康活動に関わる管理システムのモデルを提案することを目的にした今回の調査研究に取り組みました。
     本研究の背景をまとめますと次のようになります。
  3. まず、中高年労働者の健康と安全の背景にあるのは、
    1. 中高年労働者の安全と健康管理は独特の理念とシステムが必要である。
    2. 産業活動における中高年労働者の位置づけが雇用の面からも労働力の面からも経済活動の面からも不安定である。
    3. 産業のあり方が変化し、これまでの中高年労働者の安全と健康に関する産業保健の知識や技術がそれに適切に対応することが出来 ない。
    4. 中高年労働者の安全と健康のあり方は、直接、離職後の生活のあり方につながる
    5. 中高年労働者の安全と健康およびQWLを向上させることは、すべての労働者に対する快適職場の形成につながる。
      以上の5つを挙げることが出来ます。
  4. つぎに、中高年労働者の健康と安全をQWLの観点から検討することの意義と視点をまとめると以下のようになります。
    1. 複雑化する社会構造やライフスタイルの変化に伴う不適応が、職場における作業負担への不適応と重なることによって、中高年労 働者のメンタルヘルスへの適切な対応が重要な課題となっている。
    2. 中高年労働者のQWLを阻害する要素はストレスであり、向上させる要素は社会的支援ネットワークである。
    3. 中高年労働者のストレスを高める因子(ストレッサー)は、作業の技術革新・雇用体系の変化・作業編成の変化・経済状況の悪化・高 齢者に対する意識の変化などであり、社会的支援を高める要素は、中高年労働者の作業能力の適正な評価・ハンディキャップドに対する適正な労働評価・中高年者の雇用体制の安定化などである。
  5. つぎに、本調査研究の概要について説明します。
     基本的な進め方は、前同調査研究と同じで、熊本産業保健推進連絡事務所スタッフと熊本産業看護研究会員(20名)および熊本大学医学部衛生学スタッフがワークショップメンバーを構成し、研究の進行に応じて設定したテーマで、グループワークを実施することにより進めました。グループワークは、ここに示しましたように、合計8回実施しました。グループワークの作業内容は、中高年労働者のQWLの向上につながる職場と生活の要素について、フォーカスグループインタビューで得られた結果をプリシード・プロシードモデル(みどりモデル)の枠組みに整理し、それに基づいた調査票の作成を試みることであります。
  6. 全体の研究プロセスは、ここに示したように、最終的に調査票調査を経て、5.対策の提言、6.妥当性の検証にいたる予定ですが、本年度研究では、調査票の作成まで到達したところです。
  7. つぎに結果と考察に移ります。
     本研究をはじめるに際し、まず、中高年労働者のQWLを取り巻く職場・地域社会の要素を検討し、作業仮説として、図のようなパス図を作成しました。ここに示されておりますように、QWLを規定する直接的な要素は、健康状態や健康習慣に関する個人特性・作業の心理特段作業の要素・ライフイベント・高齢化社会の特性の様々な因子がストレッサーとなって発生するストレスと職場や家庭・地域にあるソーシアルサポートであるとしました。
  8. これに従い、QWLを「自らの潜在能力を十分に発揮し、充足した職業生活を送ることの出来る状態」と定義し、中高年労働者のQWLを規定する職業生活の要素として、
    1. 主観的健康感・パーソナリティ
    2. 健康習慣
    3. 作業の心理特性
    4. 作業の要素
    5. 職場のサポート制度
    6. 家族・地域のサポート
    7. 高齢化社会の特性
      を取り上げました。
       これを作業仮説として、フォーカスグループインタビューを実施し、その結果をもとにして、みどりモデルの作成を試みました。
  9. フォーカスグループインタビューは、
    1. 中高年労働者の職務満足感のかたち(在りよう)および
    2. 職務満足度を高める職場のあり方(環境・システム)
      の2回に分けて実施しました。
       場所は、熊本大学医学部衛生学セミナー・資料室、インタビュー対象者は現場の適切な中高年労働者が得られませんでしたので、ワークショップメンバーを含む産業看護職から選出しました。インタビュアーは共同研究者の上田が担当しました。
  10. インタビューの内容ですが、フォーカスグループインタビューTは、ここに示されておりますように、(1)中高年労働者にとってのQWLの定義・意義をはじめ4項目、フォーカスグループインタビューUは、(5)中高年労働者が健康に働くための職場・家庭・地域に潜在する、または、必要な資源を上げています。
  11. 設定されたフォーカスグループインタビューTの質問項目は、
     (1)については、働きがいがあるってどういうことだと思いますかなど。
     (2)については、どのようなとき、健康だと感じますかなど。
     (3)については、健康を維持するために気をつけていることがありますかなど
     (4)については、あなたが考える快適職場はどんな職場ですかなど。
    としました。
  12. フォーカスグループインタビューUの質問項目は、健康で働きやすい職場には何が必要だと思いますかなどとしました。
  13. インタビュー結果は、K-J法などを用いてまとめ、まとめられた頃日をみどりモデルの枠組みに振り分けました
     みどりモデルは、ここに示されたように、
    • まずフェーズ1としてQWL/QOLを設定
    • フェーズ2として、それに関与する健康指標
    • フェーズ3として、それらを規定する行動とライフスタイルおよび環 境に関わる因子
    • フェーズ4として、3に示された行動につながる作業者本人の知識 ・意欲・信念の程度、まわりの人の知識・意欲および信念.本人やま わりの人をサポートする職場・企業の制度やシステムの3つの項目で 構成される教育診断的因子
       最後に、フェーズ4につながる企業や地域の政策的な産業保健活 動やサービス
      と連続的な5つのフェーズより構成されています。
  14. フォーカスグループインタビューを解析した結果、中高年労働者のQWLは、
    1. 自分の技術を活かし、いきいきと楽しく仕事が出来、働く満足感 が得られる。
    2. 目的・目標・夢を持ち、張りのある、将来性のある生活が出来る。
      と定義され.QWLにつながる行動・ライフスタイルの要素として、
      1. 適正な健康習慣の実施
      2. 適正な労働・人間関係の保持
      3. 地域活動への参加
        が挙げられました。
         この結果をふまえ、QWLの実現をゴールとする中高年労働者の労働と生活の枠組みをフェーズごとにまとめると、ここに示されたようになります。
  15. これらの検討に基づいて、みどりモデルのそれぞれの構成要素を評価する調査票として、中高年労働者の生活と健康に関する調査票を作成しました。各項目は、先に示しましたみどりモデルのそれぞれの項目に割り振られています。
     なお、本年度は、この調査票を用いた調査研究を企画し、実施を準備しているところです。
  16. このように、平成13年度調査研究において、私たちは、
    1. QWLの視点から、中高年労働者の安全と健康の向上につながる 系統的な産業保健活動のモデルの作成を検討しました。
    2. そのために、職域におけるヘルスプロモーションに従い、質的調 査(フォー力スグループインタビュー)の技術を使って、みどりモデル の枠組みを作成し、その構成に対応した調査票の作成を試みました。
    3. 本研究を、熊本産業保健推進連絡事務所相談員と熊本大学医学 部スタッフ・熊本産業看護研究会会員をメンバーとするグループワー クで進めることにより、共通した意識・知識と技術を共有することが出 来、それぞれの専門職の資質の向上につながったのではないかと思われます。

 
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