平成6年度産業保健調査研究
健康診断の重要性と労働者の健康管理に関する研究
産業医が行う定期健康診断のうち、最も基本的な胸部健診ののなかで最近とりわけ増加し続ける肺がんに注目し、その実情と改善点を調べてみた。
- 現状
年 1 回の胸部健診、それも胸部X線のみとした場合、早期発見率を高め、最終的に生存率を統計学的に見ても上昇させることは、一般産業医のレベルではかなりの困難を伴うようである。この理由としては(イ)読影医の能力の差がある。(ロ)X線フィルムそのもののが投影条件、機材等の関係で肺がん読影に適さない事もある。(ハ)二人以上の読影医による二重読影、過去のフィルムと比べて比較読影などが行われにくい。というような事が考えられる。
- 改善案
- 読影能力
診断能力の向上のためには、たゆまぬ訓練以外は何もないようであるが、東京葛飾区の例でも見られるように、適切な指導者と研鑚を希望する方々の意思さえあれば充分むくわれる事は明らかである。又各地において同様の事業や研修会が熱心に続けられており、熊本でもいくつかの場所でそうゆう努力が続けられている。
- X線フィルム
X線は直接、間接共に高圧撮影を行う。 120 KV以上、更に 150 KVならより望ましい。
間接撮影では、 100mm ミラーカメラを用い、希土類グラデュエーション型蛍光板 を使用する。
その他リス類、出力調整、現像液に至るまで細かい注意を行い質のよいX線写真を確保するようにする。
- X線読影
読影は1人でなく、必ず2人以上の二重読影を行う。一般開業医等では他の医療機関との連携等が必要である。過去のフィルムを参考にする比較読影の重要性は言うまでもないが、単に陰影サイズの比較だけでは重大な落とし穴がある事は先に述べた。
- 個別検診
集検でなく個別検診とした場合、受診場所までの距離の短縮、受診期日が自由になりやすい等より受診率の増加が見込みやすい。また、主治医が産業医という事も多くなると考えられ、通常の生活情報が得やすくなり診断能力に易すると考えられる。又、直接X線フィルムの使用が多くなると考えられ、情報量の増加の意味からも良い結果が得られるのではないかと思われる。一方診断医個人の能力やX線フィルムの質の確保の問題等が生じやすいが、将来の姿としては望ましいものと考えられる。
- 喀痰検査
胸部]線では発見されず検痰のみで発見される肺がん患者が、現在全体の 20 〜 30 %にも及ぶ事から、更に積極的に検査に取り入れるべきだと考えられる。
ハイリスク者の選別に当たっては、タバコ指数(タバコ本数×喫煙年数、指数 600 以上が対象者)、年令等に加え事業所内での粉塵被爆環境等の加算等によってコストベネフィットの高いものになり得よう。
- 今後取り入れ可能なもの
スクーリング検査としてのスパイラルCTの導入、近い将来可能となる遺伝子診断の応用の他のコンピューターによる補助診断の導入等々が今後考えられて行くべき問題と思われる。
- 情報管理の面から見ると、産業医が必ずしも充分の健康診断情報を入手出来ない状態にあり、事後指導等が困難になっている。法的整備の裏づけと共により高度な産業医活動が可能になるような改善が望ましいと考えられる。
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