労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター

調査研究

平成10年度産業保健調査研究

中小規模事業場における女性労働と安全、健康、QWLの向上に関する調査研究

【調査研究の概要と成果】

 本研究は、女性労働従事者の安全と健康に関連する諸要素の構造と相互関連性を解析するための質問票を作成し、それを用いて選定された集団を対象に調査を実施し、得られたデータをもとにして、女性労働者のQWLを規定する要素を解明し、女性労働安全と健康に問題の所在と対策について新たな知見を得ることを目的としている。
 また、調査票の作成から調査の実施、データの解析にいたるプロセスを、産業看護職者のグループワークを基軸に進めることにより、産業保健に関する組織的活動の推進と産業看護者の資質の向上を図ることも視野に入れている。
 調査研究の実施に当たり、熊本産業看護研究会会員等による20名のワークショップメンバーを構成し、8月より原則として1ヶ月に1回、ワークショップを開催した。
 まず、女性のQWLの目的変数とし、それに対する説明変数を仮説によって設定した。
 最終的に、その説明変数は、(1)健康観/健康観に関する個人特性、(2)作業/作業負担の特性〔作業の心理特性(デマンド・コントロール モデル)〕、(3)ソーシアル サポートT(職場の人間関係)、(4)ソーシアル サポートU(企業サポート)、(5)ソーシアル サポートV(地域・家庭内のサポート)、(6)ライフ イベント、(7)性による社会構造の特性の7項目で、2〜4名がそれぞれの項目を担当して、質問票を作成し、最終的にそれをまとめて、統一された質問票とした。
 各回のワークショップは、関連テーマの学習会(講演と質疑)とグループごとの項目別質問票の作成作業で構成されている。
 また、学習会の内容は、「トレーニングシートを用いた職場改善トレーニング(グループワーク形式)」、「QOLの基本構造」、「チェックリスト研修会(11月20日:天竜市)報告」、「ローベンスレポートとこれからの産業保健−労働負担の指標と評価に関する新しい見方」、「QWLに関与する要因の構造を解析する−わかりやすい多変量解析のはなし」、「職場の安全と健康に関する新しい視点とその評価指標」で、付帯的に、1回、学外講師による研修会(「女性労働の社会医学的側面」 国立公衆衛生院 土井由利子先生)を実施した。
 これらの作業をへて、統一された「女性労働のQWL」に関する調査票が作成され、熊本産業看護研究会会員(20名)による予備調査を実施し、その妥当性を検討した。
 予備調査の結果、女性労働のQWLにマイナスとして作用する要素は、ストレス関連の自覚症状、ライフイベント、職場の人間関係に由来するストレスで、プラスに作用する要素は、良好な健康習慣、企業内や地域・家庭内の良好なサポート ネットワークであることを示唆する成績が得られた。
 このように、作成された調査票は、最初にわれわれの設定した仮説を検証する能力を持っており、女性労働のQWLを解析するために一定の有効性/妥当性を持っていることが確かめられた。
 しかしながら、調査票の全体のボリウムがやや大きすぎること、スコア化について改良の余地のあることなども指摘された。
 今後、この調査票を用いて、広範な調査を実施していくために、なお調査対象の範囲を広げ、そのデータをもとに、本調査票のスリム化とデータの解析法と評価のマニュアル化を図りたいと考えている。
 いっぽう、本調査研究において、産業保健活動の一環としての調査研究の基本的なプロセス(企画、実施、解析、評価、フィードバック)を体験、学習することにより、本調査研究実施担当者およびワークショップメンバーとなった産業看護職者の産業保健活動に対する意欲と資質の向上に貢献したことも、メンバーも自己評価の中で確認することが出来た。

【結語】

  • 新しい健康観と労働観に基づいた健康で快適な職場を想像することにつながる女性労働と健康の評価に関する調査票を作成した。
  • 作成された調査票は、女性のQWLを評価し、現場での有効な対策を提案するために妥当なツールと思われた。
  • 産業保健の基本理念や関連する用語の概念や調査の企画運営に関する基本的事項を学習し、産業保健担当者の快適職場の形成につながる実践の技術を高める事が出来た。
  • 調査研究をグループ学習の形式で進めることによって、参加型の産業保健活動を現場で進めるための知識と技術を習得する手がかりが得られた。

 
労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター/調査研究/【平成10年度】中小規模事業場における女性労働と安全、健康、QWLの向上に関する調査研究