労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター

調査研究

平成14年度産業保健調査研究

中高年労働者のストレス対策に関する支援システムの構築


主任研究者 熊本産業保健推進連絡事務所 所長 北野邦俊
共同研究者 熊本産業保健推進連絡事務所相談員 上田 厚 小柳敦子 廣瀬靖子
熊本労災病院 院長 宮川太平
研究協力者 熊本大学大学院医学薬学研究部 環境保健医学教室スタッフ
熊本産業看護研究会会員
  1. 目的
    • 前年度研究において、中高年労働者の安全と健康を維持増進させ、QWL の確保につなげるためには、メンタルヘルスへの適切な対応が最も重要な課題となっていることが示唆された。
    • そこで本年度調査研究では、前年度作成した調査票を改訂し、職場の中高年者の QWL の様態を把握し、各人のストレス対処能力を高めるための職場内外の資源を抽出し、それを活用した職場の中高年者支援システムを構築することを最終目的とした調査研究を実施した。
  2. 本調査研究のプロセス
    1. 前年度作成したフォーカス グループインタビューガイドおよび質問調査表を、 QWL の規定因子とその構造についてさらに詳細に解析できるように改訂する。
    2. 改訂された調査表を用いて本調査を実施し、そのデータを上記の視点から解析し、中高年労働者の QWL の確保とストレス対策につながる支援ネットワークの構造を考察する。
      ※本研究は、前年度と同じく、熊本産業保健推進連絡事務所相談員(3名)、熊本大学医学部衛生学教官(2名)、熊本大学医療技術短期大学部教官( 1 名)と熊本産業看護研究会員( 12 名)によるワークショップで進めた。

作業仮説:中高年労働者のQWL に関与する因子とその構造

☆目的変数:中高年労働者の QWL

    1. 仕事に対する総合的満足度(職務満足度)
    2. 仕事の要素別満足度:賃金・昇任・昇格:将来性/男女平等/中高年労働者への業務の配慮:作業時間・編成/カウンセリング制度/職場の安全対策/福利・厚生・余暇活動

☆説明変数:中高年労働者の QWL を規定する7要素

    1. 健康観/健康感/ストレスに関する個人特性
    2. 作業/作業負担の特性(カラセクモデル)
    3. ソーシアル サポート T(職場の人間関係)
    4. ソーシアル サポート U(企業内の制度)
    5. ソーシアル サポート V(地域・家庭内の人間関係/サポートシステム)
    6. ライフイベント
    7. 中高年労働者を取り巻く社会構造の特性
  1. 調査研究結果
    1. フォーカス グループインタビュー
    2. 調査表「中高年労働者の健康と生活」の構成
    3. 調査表調査結果

1) フォーカス グループインタビュー

フォーカス グループインタビューガイド
内容

  1. 中高年労働者における QWL / QOL
  2. 中高年労働者における健康
  3. 中高年労働者が健康に働くために望ましい職場/家庭/地域における行動
  4. 中高年労働者が健康に働くために望ましい職場/家庭/地域の環境
  5. 中高年労働者が健康に働くために望ましい職場/家庭/地域の資源

※各項目に関連する質問を 20 項目設定
インタビュー対象者:熊本産業看護研究会員 8名 X 2グループ(女性:年齢 25 〜 54 歳) (勤務先:健診機関、健保組合、事務系事業所、製造系事業所)
場所・時間:熊本大学院医学薬学研究部 環境保健医学教室セミナー室・ 19:00 〜 20:30

中高年労働者の QWL を向上させるための快適職場の形成 #1
みどりモデルの枠組み

フェーズ1( QWL )

  • 自分の技術を活かし、生き生きと楽しく仕事ができ、働く満足感が得られる。
  • 目的、目標、夢を持ち、はりのある生活、将来性のある生活を送ることが出来る。
  • 生活にゆとりが持て、老後に不安がない。

フェーズ3(行動・ライフスタイル)

  • 適正な健康習慣をとる。
  • 生活のリズムを調整する/適正な労働をする。
  • 地域の活動に参加する。

フェーズ4(前提・強化・実現因子)

  • 良好なライフスタイルや健康に関する自己決定力を向上させる方法を知っており、実行する意欲がある。
  • 職場・家族・地域に自分をサポートしてくれる人がいる。
  • 職場に自分を支援するシステム/制度がある。

フェーズ5(政策/制度/組織)

  • 技術研修の年間計画
  • 退職後の斡旋制度
  • 高齢者の雇用促進制度

#1 フォーカス グループインタビューの結果をもとに、上記課題のみどりモデルを作成した。

2)中高年労働者の生活と健康調査表の構成 #1

調査表の質問項目

  • Q-(0) フェースシート
  • Q-(1)QWL :総合的/項目別
  • Q-(2)QOL :総合的/項目別
  • Q-(3) 主観的健康度
  • Q-(4) 自覚症状:ストレス症状/精神的高揚感
  • Q-(5) 健康習慣:ブレスロー
  • Q-(6) 仕事の心理特性(カラセクモデル):自由度/要求度/支援度
  • Q-(7) 職場の人間関係
  • Q-(8) 職場のサポート制度
  • Q-(9) 家族、地域のサポート
  • Q-(10) ライフイベントとそれによるストレス
  • Q-(11) 中高年労働者に対する評価/期待
  • Q-(12) 自由記述

#1 それぞれの項目は3〜4個の選択枝からなる5〜 20 問の設問で構成され、回答によってスコア化することが出来る。

調査表調査の実施

  • 某健診機関が産業保健業務を担当する企業の労働者をのうち、中高年労働者( 35 〜 59 歳)、 600 名(男 300 名、女 300 名)を対象にして、調査表調査を実施した。
  • 配布に当たり、対象者/対象企業主には、本調査の趣旨、本調査表の使用目的、とくに本調査の第一義的な目的が、個人の健康診断や特定の事業所の安全、衛生問題を明らかにすることではないことを理解してもらった。
  • 今回の報告会では、某健診機関の職員を対象( 35 歳以上、男 42 名、女 84 名、合計 126 名)にした解析結果を紹介する。

3)調査表調査結果

◆ QWL (職務満足度) /QOL (生活満足度)と関与する要素のスコア

男( N=42 、 47.3 ± 7.7 歳)
M ± SD (CV:%) スコア範囲
44 歳未満 (N=9) 45 歳以上 (N=33)    合計 (N=42)

職務満足度(総合的評価) 3.2±0.8 3.5±1.0 3.5±1.0 5?1
職務満足度(要素別評価) 19.0±2.9 20.2±3.4 20.0±3.3 35?7
生活満足度(総合的評価) 3.6±0.7 3.7±0.8 3.7±0.7 5? 1
生活満足度(要素別評価) 24.3±3.2 24.9±3.4 24.3±3.8 35?7
主観的健康度 3.2±0.4 2.9±0.3 3.0±0.3 4?1
ストレス度(自覚症状) 20.7±4.7 20.3±4.7 20.4±4.6# 42?14
健康習慣 3.6±2.0 4.4±2.1 4.2±2.1## 8?0
仕事の特性:自由度 12.6±1.9 12.8±2.9 12.7±2.7 18?6
仕事の特性:要求度 8.7±1.1 8.4±1.9 8.5±1.7 15?5
仕事の特性:支援度 9.4±1.7 8.9±2.5 9.0±2.3 15?5
職場の人間関係 7.4±1.3* 8.5±1.0 8.3±1.1 11?3
職場のサポート制度 42.7±10.8△ 48.5±8.4 47.2±9.1 72?18
地域・家庭のサポート 16.7±6.5 19.2±4.5 18.7±5.0## 28?7
ライフイベント ストレス 2.7±3.4 3.6±4.3 3.4±4.1 60?0
職場・家庭の中高年役割評価 16.1±4.3 17.0±2.7 16.8±3.0 21?7

**:p<0.01 *:p<0.05 △ 0.1<p<0.05 44 歳未満⇔ 45 歳以上 ##:p<0.01 #:p<0.05  男⇔女

◆ QWL (職務満足度) /QOL (生活満足度)と関与する要素のスコア

女( N=84 、 42.1 ± 6.5 歳)
M ± SD (CV:%) スコア範囲
44 歳未満 (N=41) 45 歳以上 (N=43)    合計 (N=84)

職務満足度(総合的評価) 3.3±0.8 3.4±0.9 3.4±0.8 5?1
職務満足度(要素別評価) 20.1±3.9* 22.0±3.5 21.1±3.8 35?7
生活満足度(総合的評価) 3.2±1.0 3.6±0.9 3.4±1.0 5? 1
生活満足度(要素別評価) 23.0±4.0* 25.1±3.9 24.1±4.1 35?7
主観的健康度 2.8±0.7 2.8±0.7 2.8±0.7 4?1
ストレス度(自覚症状) 23.0±4.4△ 21.3±4.2 22.2±4.4# 42?14
健康習慣 4.6±1.5** 5.9±1.6 5.3±1.7## 8?0
仕事の特性:自由度 12.6±2.4 12.4±2.2 12.5±2.3 18?6
仕事の特性:要求度 8.4±1.2 8.5±1.9 8.5±1.6 15?5
仕事の特性:支援度 9.6±1.6 9.0±1.7 9.3±1.7 15?5
職場の人間関係 8.4±0.9 8.4±1.0 8.4±1.0 11?3
職場のサポート制度 42.3±7.2** 47.3±8.0 44.9±8.0 72?18
地域・家庭のサポート 20.3±3.1 20.7±3.5 20.5±3.3## 28?7
ライフイベント ストレス 4.2±6.0 3.7±3.9 4.0±5.0 60?0
職場・家庭の中高年役割評価 17.6±2.1 17.1±2.6 17.3±2.4 21?7

**:p<0.01 *:p<0.05 △ 0.1<p<0.05 44 歳未満⇔ 45 歳以上 ##:p<0.01 #:p<0.05 男⇔女

◆ストレス(自覚症状)と関与因子間の単相関係数(男女計  N=126 )

従属変数 ストレス(自覚症状: Q4 )

説明変数    
  職務満足度(総合的評価) −.311*** 主観的健康度 −.135*
  職務満足度(要素別評価) −.239*** 精神的高揚感(積極性) −.438***
  生活満足度(総合的評価) −.496*** 健康習慣 −.372***
  生活満足度(要素別評価) −.442***  

  自由度( K モデル) .116*
  要求度( K モデル) .218***
  職場の支援度( K モデル) −.100

  職場の人間関係 −.231***
  職場のハラスメント体験 −.060

  企業内サポート制度 −.109
  地域・家庭ネットワーク(総合) −.286***
  地域・家庭ネットワーク(サポート) −.225***
  地域・家庭ネットワーク(社会参加) −.262***

  中高年役割評価(期待度) −.049
  ライフイベントによるストレス .358***

***:p<0.01 **:p<0.05 *:0.1<p<0.05

◆ QWL を規定する要素とその構造(重回帰解析結果)

従属変数 QWL  (男女計、 N=126 )

説明変数 標準偏回帰係数(β) 相関係数(r)
自覚症状(ストレス) −.190** −.311***
要求度(Kモデル) −.033 −.014
中高年役割評価(期待度) −.028 .079
ハラスメント体験 −.011 −.066
職場の人間関係 .251*** .391***
職場の支援度(kモデル) .190** .293***
精神的高揚感(積極性) .168* .363***
企業内サポート制度 .161* .292***
ライフイベントによるストレス .128 −.038
自由度(Kモデル) .068 .132**
地域・家庭ネットワーク(サポート) .065 .214***
健康習慣 .036 .252***
地域・家庭ネットワーク(社会参加) .031 .127*

R=.579 R 2 =.335 P=.000
***:P < .01 **:.01 < P < .05 *:.05 < P < .10

調査結果のまとめ

表 中高年労働者の QWL を向上させる5ヶ条

  1. 中高年労働者が持っている仕事/生活に対する潜在/対処能力を活かした仕事/職場の編成
  2. 中高年労働者に対する適正な評価の理念とシステムの確立
  3. 企業と地域における中高年が役割を担う(ソーシアルサポート)ネットワークの確立
  4. 中高年者に対する家事・育児・介護の家族、地域、職場における公平/適正な分担
  5. ライフステージに対応した良好な健康習慣/ライフスタイルの選択と持続
↑↓

自己決定力/自己決定権の向上/確立
ストレスコーピング能力の向上
中高年労働者としての資質の向上

表 中高年労働者の QWL を向上させるための企業・家族・地域資源

企業内

:健康診断・事後指導/医療・福祉相談制度/休憩・休息制度/
:福利厚生制度・施設/生涯教育・学習プログラム/
:雇用・評価制度/参加型産業保健活動の導入/

法律/制度/システム

:高齢者のストレス対策ガイドライン/雇用システム/
:生きがい(対策)支援制度/介護保険・老人医療保険制度

地域/家族 :高齢者のためのクラブ・施設(公民館・老人憩いの家)/
:同好会組織・活動/高齢者の健康に関する研究センター/
:メンタルヘルス担当機関・ EPA /民間・行政ボランテイア組織/
: NPO/NGO /高齢者診療機関・福祉施設
研究機関 :大学/民間研究機関/健診機関/行政 ( 健康・福祉 ) 機関
  1. 結語
    1. 平成 14 年度産業保健調査研究において、われわれは、 QWL の視点から、現場の作業や作業環境のあり方や健康増進と安全管理のあり方の実態とその要因を解析し、それに基づいて中高年労働者のストレス対策のモデルを提案することを目的にした調査表を作成した。
    2. 作成された調査票は、特定の個人の健康やストレスの状態を診断したり、特定の企業の職場の問題を明らかにすることを第一義的な目的としたものではなく、その調査結果をそれぞれの職場にフィードバックすることにより、それぞれの職場の従業者が自主的に自分の職場の安全と健康の向上に取り組むことの出来る能力を高めることが可能になるようにつくられていることが示された。
    3. 中高年労働者の QWL を規定するもっとも大きな要素はストレス、および、社会的支援であること、中高年労働者の安全と健康対策として、メンタルヘルスに対する対応と企業内および地域のサポート体制の整備がもっとも重要であることが確かめられた。

 
労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター/調査研究/【平成14年度】中高年労働者のストレス対策に関する支援システムの構築